眼瞼下垂の匠 第3章:眼瞼下垂症の原因を図解

眼瞼下垂症のタイプ

第2章の目の周りの解剖を理解できたら、模式図と照らし合わせながら考えていけば眼瞼下垂症の種類を理解するのはそう難しいことではありません。

眼瞼は浅葉せんよう深葉しんようの2枚からなっており、この位置関係で眼瞼下垂症であるのかないのかが診断されます。眼瞼下垂があるかないかの判断は深葉しんようの動きを見ることで行います。

浅葉せんようを診断基準に考えてしまうと誰でもかれでも眼瞼下垂症と診断されてしまう可能性が出てきます。

前述の通り、眼瞼下垂症は大きく分けると2種類に分けることができます。1つ目は眼瞼を上げる筋肉の動きが悪くまぶたを上げることができない先天性眼瞼下垂せんてんせいがんけんかすいのタイプ。2つ目は筋肉の動きには問題がないにも関わらずまぶたを上げることができなくなってしまった腱膜性眼瞼下垂けんまくせいがんけんかすいのタイプになります。

また、それ以外にも眼瞼下垂症の様に見えてしまう状態(偽眼瞼下垂症ぎがんけんかすいしょう)もあり、この診断が曲者で医師やクリニックによっては眼瞼下垂症と診断してしまったりそうでなかったり患者様を混乱させることになります。

1.筋肉の動きが悪いタイプ

筋肉の動きが悪いタイプの模式図

筋肉の動きが悪いタイプの眼瞼下垂症の代表は先天性眼瞼下垂せんてんせいがんけんかすいです。

先天性眼瞼下垂とは眼瞼挙筋がんけんきょきんの動きが悪い或いは殆ど動かない状態です。筋肉が動かず瞼板けんばんを持ち上げることができないため、代わりとして前頭筋ぜんとうきんが頑張って眉毛ごと皮膚を持ち上げます。

眼瞼挙筋がんけんきょきんの動きが悪い原因は様々で、筋肉自体の動きが弱い場合もあれば、筋肉を動かす神経に障害がある場合もあります。目の開きが悪いため、一生懸命目を開こうとすることで様々な症状が現れることになります。

2.筋肉の動きは問題ないタイプ

筋肉の動きが悪いタイプの模式図

筋肉の動きには問題ないタイプの代表は腱膜性眼瞼下垂けんまくせいがんけんかすいです。

膜性眼瞼下垂の場合眼瞼挙筋がんけんきょきんは元気よく引っ張っていますが、水色の紐(挙筋腱膜きょきんけんまく)が瞼板けんばんから外れてしまっていることで裏側にあるミュラー筋に開瞼を頼ることになってしまっています。腱膜が瞼板から外れたばかりでミュラー筋が元気な頃は見た目としては正常な開瞼が可能で、この時期を代償期だいしょうきといいます。

腱膜が瞼板から外れ時間が経つとミュラー筋が少しずつ伸びてしまい、ミュラー筋だけでは瞼板けんばんを持ち上げることはできなくなります。ここまで来ると誰の目が見ても目が細く、開きが悪い人になり、この時期を非代償期ひだいしょうきといいます。前頭筋(眉毛を上げる筋肉)は更に活動的に眉毛を引き上げる補助をします。

腱膜性眼瞼下垂の代償期だいしょうき非代償期ひだいしょうきを提唱されているのもやはり松尾先生でして、とてもためになります。目の開きが正常に見える代償期だいしょうきの患者様は症状があるものの眼瞼下垂とは診断されずにモヤモヤしていたことと思います。正直以前は当院でもまぶたの動きに問題はあるものの見た目が正常な患者様をどの様に扱って良いか以前は悩んでおりましたが、現在は見た目が正常であろうとまぶたの動きに問題がある方は腱膜性眼瞼下垂症の代償期だいしょうきと考え治療にあたっております。

腱膜性眼瞼下垂も程度により様々ですが、挙筋腱膜きょきんけんまくが少し外れているだけのこともあれば、ミュラー筋が伸びてしまうくらい外れてしまうことがあります。その程度によりミュラー筋と前頭筋が身代わりになって眼瞼を引き上げることになります。

長年毎日の様に眼瞼下垂症の手術を行なっていると挙筋腱膜きょきんけんまくが外れている患者様のまぶたのミュラー筋は薄く伸びてしまいあまり収縮せず、力が弱くなってしまっていることに気づく様になりました。

腱膜性眼瞼下垂けんまくせいがんけんかすい代償期だいしょうき

(正常と診断されてしまうことが多い)
  • 目は普通に開いている
  • 腱膜けんまく瞼板けんばんから外れている。
  • ミュラー筋はまだしっかりしている
  • 眉毛が上がりおでこにシワができる
  • 目の上が凹む
  • 目の下が膨らみ始める(黒クマ)
  • 見た目は正常
腱膜性眼瞼下垂けんまくせいがんけんかすい非代償期ひだいしょうき

(眼瞼下垂と診断される)
  • 努力をしても目を開くことができない
  • 腱膜けんまく瞼板けんばんから外れている。
  • ミュラー筋が伸びている
  • 眉毛が更に上がりおでこにシワができる
  • 目の上が更に凹む
  • 目の下が膨らみが強くなる(黒クマ)
  • 見た目も目が開いていない

それぞれの症状については次の第4章 眼瞼下垂症の症状で詳しく考えてみましょ

3.眼瞼下垂症に見えてしまう状態

正常だけど眼瞼下垂症に見えてしまう状態の模式図

本来目の開きは正常だけれども眼瞼下垂症の様に見えてしまう状態の代表は眼瞼皮膚弛緩症がんけんひふしかんしょう(皮膚のたるみが多い状態)です。

眼瞼挙筋がんけんきょきんの動きは正常なのでしっかりと瞼板けんばんを持ち上げています。目の開きは正常です。

しかしその前側にある眉下のまぶたの皮膚(浅葉)が多すぎて、いくら瞼板を引き上げてもその皮膚が瞼板けんばんを乗り越えて垂れ下がってしまい瞳に被ってしまいます。

軽い時はまつ毛に眉下のまぶたの皮膚がのる程度ですが、重症になるとまつ毛を内側に押し込み「逆さまつ毛」となることもあります。瞳が隠されることで視野も狭くなります。

加齢とともに瞼の皮膚はたるみ、誰でもこのような状態になってきます。生まれつき一重で目が腫れぼったい人も病気ではありませんが、どちらかというとこれに近い状態です。

老人性眼瞼下垂ろうじんせいがんけんかすいの場合は加齢に伴い眉下のまぶたの皮膚が弛んでいる状態ですが、同時に挙筋腱膜きょきんけんまくの付着部も経年変化として弛んでいることが多く、いわゆる腱膜性眼瞼下垂けんまくせいがんけんかすいとなっていることが殆どです。

院長よりアドバイス

どのタイプの眼瞼下垂症なのかを診断することが治療で良い結果を出す基本です。色々な病院を受診して色々な話を聞き、場合によっては全く違う診断を受け、自分がどんな状況にあるのか知りたい場合はこの模式図を見ながら自分でも考えてみてください。昨今眼瞼下垂症でないにも関わらず眼瞼下垂症と診断されてしまわれることが残念ながら多くなってきている様に感じております。逆に正常に目が開くことができる腱膜性眼瞼下垂けんまくせいがんけんかすい代償期だいしょうきは眼瞼下垂ではないと診断されることが多いと思われます。

自分が本当に眼瞼下垂症なのか、そうでないのか、眼瞼下垂症のように見えているけれど実際のところはどうなのか?どの様な問題があるのかを自分なりに検討することも大事だと思います。本来あってはならないことなのですが、美容外科と形成外科では同じ診断にならないこともしばしばあります。眼科でも診断は異なるかも知れません。眼瞼下垂の診断は本来はそう難しいことではないのですが、色々な背景があり診断する医師次第で結果が変わってしまいます。眼瞼下垂症の診断はまぶたに精通した形成外科専門医のいる外来へご来院頂き、何が原因で目の開きが悪くなっているのかを精査することが大切です。

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